理由



※擬似屍姦注意


 宝条、なぜおまえはわたしを生き返らせた。
 意味なんてないさ。きみは羽虫を殺す度にその理由を考え込むのか。
 わたしは、虫と同じだというのか?
 真面目に受け取らないでくれないか。きみを生かすことや殺すことに大層な理由なんて必要ないということだよ。
 わたしが邪魔ならば、あのまま放っておいて死を待てばよかっただろう。なぜそうしなかった。
 きみは、どうしても生きている理由が欲しいようだね。理由などなくても生き物は呼吸をするものだよ。
 「そんなものを求めるのは、人間だけさ」

 仮死状態になった身体といくら交わったところでこれといった反応は見られなかった。青ざめた肌にどのようにして傷をつけても人間を超えた再生能力のおかげでその傷跡は瞬時のうちに消えてしまった。人形のようにまぶたを開けたまま1ミリも動いたことのない赤い眼球からは未だに何の表情も見出だせず、必要に応じて両脚を屈伸させると死んだ小動物の関節を動かしているようななんとも言えぬ気持ち悪さが感じられた。
 最初の頃はこのような不快感よりもまだ浮遊するような高揚感が勝っており何度でも死体と交われるような気がしていたがこの頃は射精直後に吐き気を催すようになっていて形容し難い不快感は増していくばかりだった。このようなことを始めた自分を嫌悪すらしたがもはや死体と交わるということをやめられそうになかった。精液にまみれ妙な光沢を放っている死体の両脚の付け根が目に止まり急速に現実味を帯びた吐き気が込み上げてきた。こんなところで吐瀉物の始末などしたくはなかったので済んでのところで堪えた。もう彼と交接する必要などどこにもない、永久に棺に封印してしまうべきだと考えることが習慣じみてきたが情けないことに私には実行する勇気が未だにない。
 翌日再び彼の内部に侵入すると彼が仮死状態になる前までの会話が頭の中に浮かび上がった。こんな状態になってまで生かされているのがおぞましいと嘆いていた姿が遠い昔のように思い出された。宝条、おまえはわたしを憎しみで殺したくせに、とその絶望に満ちた瞳が言っているように見えていたことも思い出した。憎んでいたことも疎ましく思っていたことも事実だがどうしてきみを生かす気になったのかは自分でもわからなくてね、と私は心の中で彼に声をかけた。ヴィンセント、きみが彼女にこの上ないほどに熱い思いを寄せていたことも一度だけ彼女と同衾したことも私は知っている。だからこそ心の奥底では邪魔だと思っていたのだろう、殺したくなるほどに、きみを殺すのも生かすのも私の憎悪によるものでそれ以上のものではない。こう言えばきみは満足するかい。
 自らの存在意義を求めるのが彼の人間たる最後の砦だというのならば彼にはそれすらも与えてやらない。結局のところ彼が最後に縋るのはそのような漠然とした希望ではなく彼を作り変えた私なのだから。そうしている間に彼の精神は完全なる死を迎え肉体は限りなく死に近い状態になった。これで私はどうすることもできなくなった。そうして死体と交わる癖がついた。
 結合したまま分泌されたものを吐き出すと私の口腔内はすぐに酸味を帯びた。せり上がってくるもののせいで呼吸は乱れ両目に涙が溢れるのを抑えられなかった。吐き気を堪えながら私は大声で笑い続けた。涙が際限なく滴り落ちて死体の肌を滑り降りていった。死体は無表情な眼で天井を見つめていた。私は耐えかねて床に嘔吐した。




ヴィンルクは正直地雷なんですがあえてその描写をしてみました。ごめんなさい