Gifts for beloved




 午後七時、仕事が終わった宝条は気まぐれに繁華街に足を運んだ。彼のマンションは繁華街から離れた住宅地にあるのだが、この日特有の社内のなんとなく浮ついた雰囲気が彼自身の心にも影響を齎したのかもしれない。
 色とりどりのネオンで溢れる商店街を道なりに歩いていく。どこもかしこも家族の楽しそうな声やカップルの話し声が響き渡っている。心なしか人口密度もこの前買い物に来た時よりも多く、観葉植物の代わりに派手に飾りつけされた樅の木が点々と設置してあった。
 まあそれは毎年の光景なので特に思うこともない。宛てもなしにぶらついていると、洋菓子店の前で5,6歳ぐらいの女の子が満面の笑みで箱を抱えて出てきたのが目に入った。それに母親らしき女性も続き、家に帰るところなのだろう、娘と手を繋ぎ慈愛の表情で宝条とは逆方向に歩いて行った。宝条はそのまま店を通り過ぎようとしたのだが、一旦立ち止まってまた引き返した。ケーキの箱を抱えた子供の表情がセフィロスのことを思い起こさせたからだ。
 手動の扉を開けて中に入る。それなりに混んでおり、案の定この時期定番の歌が店内には流れている。順番待ちの列の中には会社員らしき男性も数人いた。彼らにも家庭があり、待っている妻と子供がいるのだろうと思うと、少しの共感と羨ましさを感じた。しかし、赤いイチゴの乗った、真っ白に塗られたスポンジを前にそこいらの子供と変わらない表情をして喜ぶセフィロスの姿を想像すると、さすがの彼も顔をほころばせるしかなかったのだった。
 たくさん並んだもののうち、セフィロスが喜びそうなものを数個選んで箱詰めしてもらう。支払いを済ませ、店を出て帰ろうと思ったが何か足りないことに気づく。シャンパンは大抵、この日には付くものである。行きつけの酒屋に行ってワインを一本買って帰路についた。もう一人世話のかかる男が、宝条にはいる。
 車に荷物を詰めてエンジンをかける前に、適当なメモ紙を2枚取り出し、これからプレゼントを贈る二人に宛ててメッセージを書いた。



 "――Merry Christmas."




自己満クリスマス企画的な。いつもと毛色の違う博士。